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ゆきのおはなし




「雪は好き?わたしは好きなの。
 だって、なにもかも白くて。
 色んな事が忘れられそうだから」

彼女はそう言って笑って、
雪の道を、僕の前を一緒に歩いてた。

橋を渡って、
僕が白い息を手袋の両手の中におさめた。
僕は、彼女が好きな雪だったから、好きだった。


+

ユリ
「雪投げをね、
 よくしてたんだ。ともだちと。
 あんまりにも夢中になっちゃって、
 学校チコクしちゃってね。」

彼女はユリという。
白いユリのように、無垢な子だった。
僕は彼女と学校から、
よく雪の道を帰っていた。ここは雪の国だった。

四季が色とりどりで、
冬だけ白くパレットのようになって。

僕はあんまり雪の季節は好きじゃなかったけれど、
ユリと帰るようになってから、
好きになった。
学校をいつも一人で出るんだけど、
気が付いたらユリが前を歩いていた。

ユリ
「でもね、チコクってすごくたのしいの!」

ぼく
「怒られちゃうよ。あんまり毎日してたら」

ユリ
「そうだね、毎日チコクしてたら…、
チコクが楽しくなくなっちゃうね」



ぼく、春矢(ハルヤ)は頷いて、
そうだね。とつぶやいた。

雪の風が舞っては、
吹きかけてきて、髪の毛が凍ったりして。

凍った髪の毛を手袋を取った指先であたためて、
溶かしたりした。

ユリは、また今日も橋の上を歩いて、
手すりにもたれて、雪玉を川に投げ始めていた。

川に音を立てて入り込んだと思えば、
すぐに溶けていく。

ユリは雪玉を作って投げるのが、
どうやら昔から好きみたいだ。

でも、
春矢と雪合戦は一度もしたことがない。
雪合戦、好きみたいだから、
「一緒にやる?」と聞いたら、

ユリ
「やらない。
 春矢くん、弱そうだから、つまらないもん」

意地悪そうに笑ってそう言う。
雪投げをして登校してた頃は、
どうやら強そうな友達と雪合戦をしてたみたいで、
春矢は相手にされなかった。

春矢
「それもそうだね。」

ただ、頷いて橋の上を通り過ぎた。
雪がまた吹き付けてくる。
今日は一段と北風が強かった。
これから、もっと吹雪きそうだ。


春矢
「速足で帰らないと、
 少し吹雪いてきそうだね」

ユリ
「そうだね。
 今日の晩御飯なにかな。
 あったかいシチューがいいなぁ!」

二人は足を急がせる。
運悪く踏切にぶつかって、
電車を待ちぼうける。
貨物列車が踏切の音の中で雪吹雪を作りながら、
通り過ぎていく。
風がまた吹き荒れてて、少しむせた。

雪が深く積もった歩道を歩いて、
交差点のところ、ユリは立ち止まって、
振り返った。笑っていた。

ユリ
「雪ってすごいね。
 こんなに強く、吹いてて」

(あ。また、この交差点で…)

北風がまた強く吹いてきて、雪にまみれた。
視界が白くなって。
春矢がまた目を開いたときには、
ユリは今日も走っていなくなっていた。

この踏切の渡った歩道の交差点で、
ユリはいつも走っていなくなる。
雪みたいだとも思った。
ユリの家はこの近所なのだと思う。

春矢は茫然と立ち尽くしたまま、
ユリの走っていったほうを虚ろに眺めていて。
だんだん、雪がひどくなってきたので、
帰ることにした。
また足を動かし始める。

ユリと歩いていない雪の道は、
ただの雪の道で。
ユリのいない雪の道は
あんまり雪が好きじゃなかったかもしれない。
足が重たくなって、
冷たくなっていく。ユリのことを考えた。
少しあたたまるような気がした。



+

学校。図画工作の授業。
白い、画用紙。
ざらざらしてるほうが表ですよ、と先生は言った。
春矢はざらざらしてる面と、
ざらざらしてない面を確認して、
鉛筆を持った。
今日は手のスケッチの授業だった。
まず、親指と人差し指の付け根から、
慎重に鉛筆を走らせていく。
輪郭をたどるようにうつしながら、
正確にスケッチしていく。
読書が、本に入るものであれば、
スケッチは絵の中に入っていくような気がした。
夢中になって、口をあけたまま、
鉛筆を走らせる。

出来た頃には時間が大分経ったみたいで、
先生がいつの間にか皆の描いたスケッチを
教壇で紹介しながら発表していた。

春矢も遅れて、
そっと教壇のテーブルにスケッチした紙を提出した。

松野先生
「これは、いいですね。
 手が、紙の中に大きく描いてる。
 こうやって大きく描くのがいいんです。
 紙の中にたっぷりと。」

一枚、一枚
丁寧に紹介をしていく先生。
あんまりコメントの見つからない絵も、
丁寧に褒めていた。
春矢は小さい頃から絵を描くのが好きだった。
夢中になれることだった。
やがて、先生は最後の絵、
春矢の絵をめくって、
皆の前に見せるようにして、
口を開いた。

松野先生
「すごい、上手ですね。
 うまいなぁ。」

そう一言残すと、すぐに授業をたたんで、
皆は席を片付けはじめる。
春矢も当然のように、
椅子をさげるのだが、

(どうして、僕のは、
   上手としかいつも言わないんだろう。)

とも思った。

いつもスケッチの時間、
同じ言葉を何度もきいたような気がする。
いつもその言葉だった。
うれしいような気もしたけれど、
なんだか違うような気もした。

(僕の絵は、
  あまりおもしろくないのかもしれない)

春矢はクラスメイトの横を通り過ぎて、
追い抜いた。追い抜いて、
教室に戻った。

速足だった。春矢には、
クラスメイトには友達がいなかった。

隣のクラスにも、
その隣のクラスにも、
さらに隣のクラスにもいない。

春矢は掃除をすませて、
鞄を持って玄関に向かった。

靴を揃えて、
かかととつま先をしっかりさせて、外に出た。

雪がちらついてた。急ぐこともなく、
淡々と校門を出て、歩道を進んでいった。


空は曇り空で、空も灰色が混じった白さだった。

ユリ
「春矢くんの手のひらの絵、わたし好き。
 あんなふうに手をくねってさせて、
 わざと難しく描いてるんでしょ」

くすくす、と
ユリがいつの間にか前を歩きながら振り返って笑う。

ユリ
「春矢くんって曲がってるよね。心も。
 みんな手のひらをすらってのばした簡単なポーズなのに。
 一人だけ、
 くねくねさせたポーズで描いてる」

春矢は頷いて、少し微笑んだ。
春矢の微笑んだ顔を見て、
ユリはまた一層幸せそうに笑った。
北風がまた吹き付けて、
二人は体を震わせた。

横断歩道、
つるつるした道路を慎重にすべらないように歩いた。
ユリはあまり、
すべらないように歩くのが得意じゃなくて、
おっとっと、と少し滑るように歩いた。
途中から春矢のコートをつかんでは、
また手を離して歩道を二人は歩きはじめた。

ユリ
「今日は60点ぐらいだったね、つるつるしてたけど、
なかなか転ばなかった。結構いい出来でしょ」

春矢は頷いて、そうだね。と呟く。
吐息を手袋の中におさめて、
空を見上げた。
雪が舞うようにちらついている。

春矢
「今日はちょうどよい雪だね。
 このぐらいだったら、少しだけ平気」

ユリ
「うん。おいしそうな、
 お菓子みたいな雪だね。すごく、きれい」

歩き進めて、いつもの踏切を通り過ぎる。
今日は電車にはあたらなかった。
それが、春矢はちょっとさびしくもあった。
ゆっくり、ゆっくりと二人は歩いて、
いつもの交差点でユリが振り返った。

ユリ
「また、手のひらの絵、見せてね。
 わたし、春矢くんの絵、好き。」

北風がまた音を立てて、強く吹いた。
雪が舞い散って。
走る音が白い視界の中でした。
目を開けると、やっぱりユリはいなくなっていた。

また、絵を描きたいなと春矢は思った。
今度は、雪の絵を描いてもいいかもしれない。

鉛筆で雪を描こうか、
色鉛筆で描こうか迷った。

そんなことを考えながら、
雪の道を歩いていった。

すごく寒くて、思わずくしゃみが出た。

ユリは雪が好きだ。
だから、雪を描いて今度見せてあげよう。


いつもの一人の雪道が
少しだけ軽い足取りだった。

歩いて帰って、
画用紙に向かって、
また下校時間になったら、
ユリがいるんだ。

知らない間に、
ユリが目の前を歩いている。

だから、
最近は少し、学校が楽しかった。


+

ユリとはじめて出会ったのは、
9日前ぐらいだったのかもしれない。
あまり記憶がおぼろげで、

ちゃんとは覚えてない。

気が付いたら、ユリって呼んでて、
目の前を一緒に歩いてた。
ユリと帰る日は決まって雪だった。
雪女なのかもしれない、ユリは。

ユリ
「ねぇ、春矢くん」

春矢
「わ…!」

ユリ
「かんがえごと、してるの?」

また今日も雪が少しだけちらちらと降る中、歩いていた。
気が付いたら、
下校時間になってることが多かった。最近は。

春矢
「うん。ちょっと、かんがえごと、してた」

春矢は苦笑いした。
ユリはじろっと見つめて、笑った。

ユリ
「春矢くんはよくかんがえごと、してるよね。
 休み時間もいつもひとりで、
 机に座って、窓の向こう見ながら、
 どこか遠くみてるもの」

それは、下校時間の。
こうしてユリと一緒に歩く時間を
思いえがいてたからだった。

石焼き芋のうたがどこからかきこえて、
だんだん大きくなってきた。
毎年、この辺りをまわってる、
石焼き芋屋さんだ。ちょっと音が大きくて、
ユリの声がきこえなくなりそうだった。

ユリ
「焼き芋ってちょっと高いよね。
 だから、たまにしか買わないんだけど、
 だからおいしいんだよね!」

春矢は頷いて、
一緒に横断歩道を渡っていた。

今日の道路は少し気温が高めで、
いつもよりつるつるすべりやすくなっていた。

だいじょうぶかな、
と春矢はユリの方を心配そうに見ていた。

つるりつるりと、滑らせながら、
ユリは足を動かしている。

横断歩道を渡りきったところでユリは溜息をついた。
白く、淡く、空気が広がる。


ユリ
「だめだ!今日は、20点。
 すべりすぎちゃった」

やがて、橋を渡るころ、
雪がいつの間にか止んでいて。
ユリが橋の上で、
また今日も雪玉をせっせと作って、
川に投げ込んでいた。

思いきり飛んだと思えば、
沈んでは溶けていく。

とても楽しそうで、
春矢も、たまにはいいか、と雪玉を作った。

ユリは気付いたように、
春矢を見つめた。

春矢
「あんまり、
 遠くまで投げれないと思う…けどっ…」

雪玉を思い切り、
川のほうに投げ込んだ。
音を立てて、溶けていく。

やっぱり、
ユリみたいに遠くまでは飛ばなかった。

ユリ
「遠くに飛んでも、近くに飛んでも、
 やっぱり溶けて、消えちゃうね」

ユリは少しさびしそうに、笑った。
橋を通り過ぎる。

道路沿いを、
今日は降ってない雪の積もる歩道を
二人並んで歩いて。

踏切に、今日はぶつかった。

近くに、駅があるので、
電車も駅でとまっていて。
今日はその電車もまってることもあって、
長い踏切だった。

春矢
「あの。絵を描いたんだ。雪の絵。」

鞄を背中からおろして、
少し折れちゃった切り取ったスケッチブックの一枚を
ユリにゆっくりと差し出すように見せた。
それは交差点の、
強く吹き荒れる雪の絵だった。
ユリはまじまじとその絵を見て、
手に取って、眺めた。電車が、
やがて踏切の中を通り過ぎていく。
音が、揺れて、揺らされていく。

ユリ
「交差点…」

春矢
「ユリの、近所の道、
 描いたんだ」

鉛筆にしようか、
色鉛筆で描こうか迷ったけれど、

やっぱり鉛筆で描いた。
スケッチのようなものだった。

小さい頃から絵が好きだったけれど、
スケッチが一番好きだったかもしれない。

画用紙の右下には、「はるや」と書いてあった。
左上には、「ユリへ」と書いてあった。

ユリ
「これ、もらっていいの?」

春矢は無言で頷く。
もう踏切はとっくに遮断機が上がってて、
車も、横を走っていたけれど、
二人は踏切の前で、絵を広げて、
立っていた。
雪が画用紙の上に、小さくやさしく触れるように、乗った。

ユリ
「ありがとう。
 わたしのために、描いてくれたんだね。
 うれしい。でもこの絵、
  いつもより、さびしそうだね。」

やがて、
ユリは背負ってた鞄からクリアファイルを取り出して、
一枚画用紙を入れた。

そのクリアファイルには取り出したときから、
なにも入ってなくて、
まるで、用意してたみたいだと、不思議と思えた。

いつものように踏切を渡る。
でも今日はユリがまた口を開いて、
歌うように話した。

ユリ
「春矢くんは、
 雪があまり好きじゃないんだね。
 もらった絵、見て、思った。
 でも、わたし、
 全然そんなこと、嫌じゃないよ」

春矢は、
ぼうっと、ユリのほうを見つめて、歩いていた。
いつもより、ゆっくりのスピードで、歩いていた。

ユリもそれはいっしょで、
ゆっくりと歩いてた。

ユリ
「この絵、部屋に飾るね。
 うんと、高いところに飾る。」

春矢
「うん、ありがとう。」

二人は、そうしているうちに、
ゆっくりでもいつもの交差点に差し掛かった。
北風が舞ってきた。
ユリは雪みたいな子だった。

ユリ
「雪の道、いっしょに歩いてくれてありがとう」

気が付いたら、
走る足音もなく、風といっしょにユリは消えていた。
ユリは、雪みたいにいなくなった。

今日も。





その日を境に、
下校する日は、一人で雪道を歩いていた。
雪が降ると、
ユリが降ってるみたいで、うれしかった。
美術室で、雪の絵を描いてるときも、
なんだかうれしかった。

雪が少し、好きになったのかもしれない。
いや、ユリのことが、

好きだったのかもしれない。
雪の絵を今日も描いていた。
放課後。

松野先生
「あら、春矢くん。
 こんな時間まで。残って、絵、描いてたんですね。」

恥ずかしそうに、
春矢は画用紙を差し出して、先生に見せた。
先生は少しあたたかい表情になって、笑った。

松野先生
「これは、スケッチじゃないんですね。
 この女の子、素敵な笑顔、してますね」

春矢は少し微笑んだ。
長い冬がまだまだ続きそうだったけれど、
雪が降るとうれしいなと思った。

廊下のむこうで体育系の部活の人たちが、
がやがやと騒いでいて、
松野先生が扉を閉めて、また戻ってきた。

松野先生
「雪、好きなんですか?」




END (2013.11.17 短編)






*あとがき

雪のようなユリと、
それに溶かされるような僕との
ゆったりとした、下校時間。

やさしい、
好きな作曲家さんのピアノの調べを聴きながら、
今回は、過去作品、
「朝焼けのブルー」や「サンタがいなくなった街」に近い、
簡単に読めるような児童書のような作風で
書いてみました。

舞台は、
地元の雪の町に設定してます。

雪を投げこむ小さな橋や、
貨物列車が行きゆく踏切。
石焼き芋屋さんがスピーカーで流していて、
国道沿いを、ユリと春矢の年齢の頃は
よく毎日こんな風に、歩いてたものでした。

ここまで読んでくださり、
ありがとうございました。

寒い冬が訪れました。

読者の皆様も、
お体ご自愛ください。






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*製作

君の音。/真島こころ
(写真・言葉・音楽)

企画公開とともに、それに添えた弾き語りも公開中。







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